アボリジニと火 〜命の炎に包まれた、2018年夏至の記憶

命を再生する

命を昇華させる

真っ赤な炎。

様々な想いを抱きしめた大地から大空へ。

 

今宵は夏至。

 

 

1年の中で、太陽の光がもっとも強く降り注ぐこの日に私たちが向かったのは、赤道からほど近い、赤い大地と、手つかずの原始的なブッシュが残る聖地。

ケアンズから北西に車を走らせること3時間と少し、ユーカリ林と蟻塚が途切れなく広がる。

 

 

遠くに視線をやりながら、アボリジニのガイド、ジョニーが言った。

「大地が泣いている」と。

「木陰をつくる林冠を燃やしてはいけないのに。彼等(土地を管轄する団体)は焼き尽してしまうのさ。あの土地が再生することは、もうないだろう」

窓から見る草原からは、まだ煙が出ている。

なるほど、ユーカリの樹々は上まで黒く焦げていた。

 

 

 

アボリジニの人々は、何万年もの間、火で大地を浄化してきた。

 

適切な時に、適切な条件のもと、大地に火を放ち、不要なものを焼いて新しい命を再生させる。そんな自分たちの火の管理のことを「Cold Burn」と呼ぶのだと言う。一方、白人のやり方は「Hot Burn」。

 

「俺等が燃やした後の土は、直後だって触れるくらいの温度だ。樹の根っこや幹や林冠を燃やすこともない」

そっと触れると、焼けた雑草は不思議なほどにやわらかくて優しい。黒く焦げているのに、炭が手につくこともなく、パウダーのようになってふんわりと土に還った。

 

 

 

 

誰かに頼まれたからではなく、先祖代々が守ってきた大地を、次の世代に受け継ぐため、一人ブッシュに入り、火で管理するジョニー。

燃え具合を確認しながら、ときには朝方までいると言う。

 

Cold Burnを行うのは、草についた朝露が自然に火を静めてくれる時間帯で、風向きなども慎重に選ぶ。

自然と共に生きてきた、アボリジニの人に伝わるカレンダーがあり、樹の種類によって、焼くべき季節も決まっている。

 

「白人は火と闘う。俺等は火から恵みを受け取り、火と共に暮らす」

 

 

 

火星がひときわ強く赤い光を放っていた、夏至の夜。

「他人に見せたことがない」という、神聖な儀式にも似たCold Burnに連れて行ってくれた。

 

4駆でブッシュに入り、植生のバランスを見極めて、Cold Burnをするべき場所まで草をかき分け歩を進める。

ジョニーは手慣れた仕草で火をつけた。

 

 

 

炎は一旦、上に向かって勢いよく燃え上がると、次第にゆるやかに、輪になって広りはじめた。

「火が一気に広がらないから、虫や動物たちが移動する時間もあるんだ。」

 

彼には、いつごろ、どの辺りで火が鎮まるかも分かっている。

「この緑の草の手前で、明日の夜明けごろには鎮火するだろう」

樹の幹のてっぺんまで駆け上らない炎は、まるで魔法のようだ。

 

私たちは、まっすぐな熱と、神聖な光に包まれる。

そこはとても厳粛で、安全な場所だった。

 

 

 

パチパチと火がたてる静かな音以外、何も聴こえない。

 

静寂の中で響き渡るのは、

命の鼓動。

 

一瞬ごとに姿を変える炎に、一回生起の人生が重なる。

 

 

 

命を生かす炎は

ただただ、美しく。

すべてがゆらめく炎の中で、昇華され、天に上る。

 

 

 

 

不要なものは静かに姿を変え、純粋なものだけが息づく大地。

その大地に、今、立っている。

 

漆黒の夜を赤く染める炎に吸い込まれ、

私は、雲ひとつない空、そして大地とつながった。

 

 

 

この夏至の夜を、一生忘れることはないだろう。

地球の片隅で、火と共に大地を守っている人がいることも。

私たちは、大地と宙の間で生かされている「人間」であることも。

忘れない。

 

 

 

心に灯された火は、熱と光と共に、静かに燃え続ける。

 

 

アボリジニの聖地・教え, ケアンズ・ソウルジャーニー

Related Posts

[insta-gallery id="1"]